毎日の生活の中で、「食べる」ということから、私たちは何を学ぶことができるのでしょうか。そもそも「食育」とは?
今回、 「食」をテーマにした、特別対談が実現しました。
2005年7月に食育基本法が施行され、近年注目を集めている「食育」。しかしその反面、孤食の問題や、朝食をとらない人も多いと言われています。
「子供たちの子供たちも、その、ずーっと先の子供たちも食べていけますように。」というメッセージを掲げているフード・アクション・ニッポン。子供たちにより安全な食を残すために、そして食に関する正しい知識を学べる環境をつくるために、今、私たちはどんなことをすればいいのでしょうか。料理研究家の今別府靖子先生とフード・アクション・ニッポン推進本部の渋谷事務局長にお話を伺いました。
―――今別府先生が考える「食育」とは具体的にどのようなことなのでしょうか?
今別府:食育基本法ができたときから、料理研究家として、母として、「食育」はずっと私の中のテーマでもあったのですが、そもそも「食育」にはこれといった定義がないんですよね。
私はまずは食を楽しむということが基本であり、そこがスタートだと思っています。渋谷さんはどうお考えになりますか?
渋谷:難しいテーマですね。フード・アクション・ニッポンからすると、食料自給率を向上するために
・「いまが旬」のものを選びましょう
・地元でとれる食材を日々の食事に活かしましょう
・ごはんを中心に野菜をたっぷり使ったバランスのよい食事を心がけ、しっかり朝ごはんを食べましょう
・食べ残しを減らしましょう
・自給率向上を図るさまざまな取組みを知り、試し、応援しましょう
と5つのテーマを掲げていまして、これらがおのずと「食育」に関わってくるのだと思うんですよ。
考えてみると、家族の団らんが復活すれば自然と「食育」に対する姿勢も変わってくるのではと思います。たとえば、祖父母をはじめ、両親、兄弟がいて家族そろってご飯を食べる。嫌いな食べ物を残していると、「ちゃんと残さず食べなさい!」と叱られたり、兄弟でおかずを取り合ったりなど、食卓の中で生まれる他愛もない会話の中でコミュニケーション力が自然と身についていくものだろうし、そういうところに「食育」の原点があると思います。
今別府:本当におっしゃる通りで、そこが基本になると思います。
―――今別府先生のご実家の食卓はいかがでしたか?
今別府:祖父母と両親、兄弟、そして私の7人家族で、とにかく女性陣がおしゃべり大好き!食卓は常にワイワイガヤガヤしていました。人数も多かったので当たり前に食べ物がある環境で、朝食からお惣菜がたくさんでてきましたよ。
渋谷:今思うと、楽しい食卓を囲んで育つと、自然と食に対しても興味をもつようになるんじゃないかと思うんですよね。
今別府:そうですね。私の実家では食べるだけでなく、すり鉢でのゴマ擦りや、野菜の皮むきなど、よく料理を手伝わされていた記憶もあります。イヤイヤやっていたものの、そのおかげでりんごの皮むきだけには自信がつきましたね。
渋谷:りんごの皮むきは、どういった経緯で上手になったのですか?
今別府:小学生の時、お手伝いをしていたら「りんごの皮むき上手ね。」と言われて。褒められると単純に嬉しいじゃないですか。りんごの皮をむくたびに言われていたので、いつの間にか好きになっていましたね。
渋谷:なるほど、褒めるって大事ですよね。大人だって褒められると嬉しいですし(笑)。イヤイヤやっていた手伝いだって、褒められれば自ら率先してやりたくなりますね。
―――渋谷事務局長は「食育」についてどのようなお考えをお持ちですか?
渋谷:僕はどちらかというと子供にクローズアップしたいと思っています。「食育」とはいいますけど、どちらかというと“育”の方に重きを置くべきかな、と考えています。子供に食の大切さを意識させるには、まず教える親が意識改革してくれないと何も変わりません。親子同時進行で取り組むことで「食育」を強化していければいいですよね。それこそ、今別府先生みたいに料理研究家でもあり、お母さんでもあり、奥さんでもある方が伝道師として広めてもらうことが「食育」の成功につながっていくんじゃないかなと勝手ながら思っています。
今別府:私が講師を務める料理教室で、若いお母さんたちと会話をする機会が多くあるのですが、皆さん、料理に対してとても一生懸命に取り組んでいらっしゃるんです。ただご年配の方から見ると、「もっとしっかりできないの!」って思われてしまう一面も。そう思われてしまうのは、若いお母さんたちの周辺にある情報が余りにも多すぎるからかもしれません。その中で正しいものとそうでないものを選んで判断することはとっても難しい。ご両親と一緒に暮らしていない核家族の家庭であればなおのことです。教えてくれる人がそばにいないから、何が重要なのか正しく選ぶ力も身に付かないんです。まずは正しい情報を教えてあげることが一番の解決であり、情報を得られる機会や場所を提供してあげることが大事。子供の前にまずは親が「食育」に取り組むべきなのだと思います。
―――最近は、孤食や欠食などが問題視されていますが、今別府先生のご家庭では、何か工夫はされていますでしょうか。
今別府:たいしたことでもないんですけど(笑)、心がけていることは朝食はとにかく一緒に食べる!ということです。夜食はご主人の帰りが遅かったり、お子さんたちが塾に行ったりと、なかなか家族全員が揃わないというご家庭も多いと思いますが、朝食は、ちょっとの努力で家族みんなで食べることができるのではないでしょうか。
とにかく、同じ空間にいることが大事なんです。他愛もないことを話しているだけでも、そこからコミュニケーションが生まれます。それに朝は、子供たちの体調がそのまま顔に出るので、調子が悪いのかな?とか、食べ方を見て今日はご機嫌斜めだなとか、観察することもできるんです。
朝食自体は、決してたいした内容じゃないんですよ(笑)。和食中心で、本当にぱぱっと簡単に作れるものだったりします。
渋谷:食卓を囲むって大事ですよね。今別府さんのお子さんたちが大きくなって、結婚、そして家庭を持った時に、家族一緒に朝食を食べる大事さをきっと改めて感じると思いますし、同じように続けていくでしょうね。
今別府:一番大事なことって、「おいしい」もそうですが、楽しく笑って食べること、つまり“楽食”だと思っています。私が料理教室などでいつも言っているのは、そんなに気張らずに!ということです。料理は、楽な気持ちで作った方が良い。手の込んだ料理ばかり作ってしまうと毎日続かないと思うんです。
渋谷:時には力を抜くことも大事ですしね。
今別府:私自身、子供たちには今まで料理手伝って!とは言った事がないんです。以前にですね、珍しく私が体調崩しまして、またちょうどその日がたまたま私の誕生日だったんですね。そしたら唐突に娘が「何か作ってあげる」って言ってきたんです。普段、料理している姿なんて見たことがないのに!
「じゃ、お母さんの米粉の本を参考にしようかな」といって、米粉のニョッキやケーキを作ってくれたことが、本当に忘れられない思い出ですね。
渋谷:もう、涙ものですね!
今別府:えぇ。感動しました。
渋谷:反抗期もありますけど、子供って実はちゃんと親を見てますよね。知らないうちにそれまで培ってきた家族とのコミュニケーションの中で知識や意識が育まれていくものなんですね。
今別府:食に関しては自発的に興味を持ってほしかったので、あえて子供には言わなかったんですよ。最近は、息子も自ら「何か手伝おうか?」って言ってくれるようになりましたし。
渋谷:実は僕の娘が7か月になったんですね。ちょうど離乳食をはじめたんですけど、毎朝5時に起きて家内と一緒に離乳食を食べさせています。きっとこの子は忘れてしまうとは思うんですけど、今別府さんの朝食の団らんのお話を伺って、子供が大きくなっても続けていきたいなと思っています。
―――最後に、今回対談されてみてお二人が改めて思う「食育」についてお聞かせいただけますでしょうか。
今別府:そうですね。小難しいことは置いといて、まずは子どもたちに食べ物に興味を持ってもらうことが大切だと思いますね。それは幼稚園からでも小学生からでも良いと思います。大人がきっかけを与えてあげれば、子供は自然と学ぶようになると思います。
渋谷:フード・アクション・ニッポンとしては、さまざまな取り組みを通じて「食」の情報を発信するのが課せられた使命だと思っています。時間はかかるかもしれませんけど、食料自給率が向上し、最終的には子供たち、そのずーっと先の子供たちも、安心して、楽しんで食べられる社会になればいいなと思いますね。
今別府:あと、ぜひ食べるだけではなく料理を作ることをオススメします。たとえば、家族に料理をふるまうと「どうして料理を残したんだろう」「おいしくなかったのかなぁ」「作りすぎたかな」など、いろいろ気になってくるんです。そして今度は、食べた後に「おいしいよ」って言ってもらいたくなる。「おいしい!」とか、「また作ってね」という言葉で、また料理したい!って思える。そういう連鎖ができれば、親も子も自然と食に興味を持ち始めて、それが「食育」につながるのだと思います。
誰かのために料理を作り、 相手を思いやる心を育むことで、家族みんなが食に興味を持ち、さらに家族の絆を深めるきっかけにもなるということですね。
普段なかなか聞くことのできない、おふたりの日常から垣間見れる家族団らんのお話や「食育」に関する思いなど、たくさんお伺いすることができました。ありがとうございました。
今別府靖子(いまべっぷ やすこ)さん
料理研究家・栄養士。健康とおいしいをテーマに、様々なメディアで活躍。他にも地方自治体や企業向けのレシピ開発や娘の小麦アレルギーをきっかけに米粉レシピにも1999年頃から積極的に取り組む。
(Mogu・Maga編集部 松本)
